見張りが朝を

日本キリスト改革派岐阜加納教会牧師のブログ

包装

街の片隅の小さな店で小さな贈り物を買い求めた レジに座っていた店員は少女のような若さだった品物を渡すと包みますか と小声で訊いたお願いします と私は言った 彼女はそれを包み始めたが手許がおぼつかないじきに 紐はたるみ包装紙には皺が寄り 何とか包…

まず 屋根の庇を描いてから一滴 一滴窓に雨粒を伝わせるノートとペンだからできること キーを打てば雨粒はいきなり窓にたたきつける

待合室

外界から遮断されているわけではなく、かといって外界と同じ空気が流れているのでもない場所。 事が事務的に運ばれているようで、書類からはみ出る見えない抵抗力を感じる空間。 動物や樹木の名を忍ばせた名字を持つ人々は、固有のしかたで反応するセンサー…

理論

この人たちは、何人の死者たちを見送ってきたのか。この人たちの脳裏には、何枚の死者たちの記憶がたたまれているのか。この人たちは、どれほどの悲しみの波にもまれてきたのか。この人たちは、いくたび不当な仕打ちに耐えてきたのか。 適者生存、自然淘汰、…

硝子瓶の中の液体層をなすふたつの部分 上のほうの澄んだ部分はすぐにも口をついて出る部分底のほうの澱んだ部分はなかなか声にならない部分

いつもの仕事

幾日かに一度ごみ収集車が町内を巡る朝 軒をつらねる家々から幾人かの老人たちが出てきていつもの仕事をこなす日々 暮らしていくために大切な仕事 黄色いネットをごみで膨らんだビニール袋にかぶせコンクリートブロックを四隅に置くごみをからすに荒らされぬ…

筆跡

間をおいて届いた二葉の絵葉書 絵柄こそ異なれどそのたたずまいにはいささかの違和もない筆跡も文体も盛り込まれている思想もまさしく彼のもの その間に長い時間を要した大きな手術がはさまっているなどとはだれも思わないだろう 二枚の絵葉書を並べて眺めて…

ふと見ると洗面台に ひとすじひびが入っていた おそるおそる 手を伸ばし指を近づけると 白い陶器の冷たい感触ののちにそれはこころもち動いた 指でつまむことのできる亀裂だった 花冷えの朝かすかなこころのたじろぎも見えざる手の中にある

人間の数量化

「二千の結核患者、炎熱の都議会に坐り込み 一人死亡」と 新聞は告げる(黒田三郎「引き裂かれたもの」 詩集『渇いた心』所収 角川書店『日本の詩集16 黒田三郎詩集』より) この作品の中の「一人」は幼い娘を持つ、貧しい、結核を病む母です。一週間後に…

忍耐

樹液は外から塗られる薬液でなく、樹木の内から浸み出す体液。だから、傷口は乾かない。かさぶたは形成されない。生傷は疼き続ける。ピンポイントで、秒針は打ち続ける。 かさぶたがいつまでも形成されない。その不安も、意志をもつ他者から与えられたもの。…

フットライト

真夜中のホテルの部屋。深い闇の中、足元灯の明かりが、寝台に投げ出された片足の足指と、足の甲を照らしている。 昼間会った人が話していた。手をかざすことで、手から発する霊力があらゆる病を癒す、親類がそう信じていると。 足元灯の光も、この片足に隠…

戦時下の詩人たち

詩人の中村不二夫さんが、2月になさったご講演のレジュメをお送りくださいました(大変、充実したもの)。「翻弄された『戦時下の詩人たち』」(日本詩人クラブ例会)。YouTubeで視聴できます。 〇戦争の時代、99パーセントの詩人が愛国詩を書き、日本の…

前に

長く続いた、粗野な言葉の圧力。枠づけるべきでないものを、無理やり枠づけようとする不合理。そこに覆いかぶさった、見えざる細菌の圧。 人は壊れやすい器。その事実を、あらためて思い知らされ。 寄らば大樹の陰。その大樹が内側から腐敗し、じき倒れるこ…

指を動かし、折り重なった音の層をまさぐる。たぐり寄せたい旋律は、何枚かの布地のしたにある。